UFO小学校7

UFO小学校のうんどうかい
向井 豊昭


  UFO小学校のうんどうかい

  むかい とよあき

 豊島区東池袋*―**―**
 向井豊昭 58歳 フリーター
 TEL ****・****

 
 ベッドの上の大ちゃんのまつげを、あさのひかりがノックしていました。とびおきた大ちゃんは、ベランダにはしります。
 青い空がありました。くびをまわしてくもをさがしましたが、くもは見あたりません。
 大ちゃんのくびのうごきがとまりました。ポツンと一つ、空のおくに、ひかるものが見えるのです。
 見つめていると、つぶはだんだんふくらんできます。ふくらみながら、はまきのかたちになりました。たばこのはっぱをまいてつくったはまきです。大きさも、口にくわえられるほどのものでした。
 かたちはかわらず、大きさだけがかわっていきます。空のおくからスピードを出してちかづいてくると、UFO小学校の空の上で、はまきはピタリと、とまりました。かたちははまきでも、大きさは、もう、くわえることも、もつこともできません。校しゃよりも大きくなって、はまきUFOは空にうかんでいるのです。
 大ちゃんはベランダの手すりをつかんだまま、からだをよこにすべらせませた。パパとママのへやのまえで、大ちゃんはさけびます。
「パパ! ママ! でっかなUFOが学校の上にきたよ! おきて見てごらん!」
 目はUFOからはなしません。うしろに足をけとばして、サッシのガラスをたたきました。
 大ちゃんのうしろで、サッシが音をたててあきます。うしろだけではありません。上、下、となりから、おなじ音がひびきあい、ベランダというベランダに人が出てきました。大ちゃんは、マンションのみんなをおこしてしまったのです。
「アーッ!」
「エーッ!」
「オーッ!」
「ハーッ!」
「ヘーッ!」
「ホーッ!」
「マーッ!」
「ヤーッ!」
 おどろきのこえがベランダにひびきあいました。大ちゃんのうしろでは、「ワーッ!」とママがおどろき、「ンーッ!」とパパがおどろいています。
 おどろきは、まだまだおわりではありません。はまきのよこはらのまるいドアがあくと、えんばんが一つとび出してきたのです。
 ぎんいろにひかるえんばんのおなかには、かげのようにくろいところがありました。よく見ると文字なのです。『U』という大きな文字が、えんばん一ぱいにかいてありました。
 となりのドアがあきました。えんばんが一つ、またとび出してきます。大きな文字が、やっぱりかいてありました。こんどは『F』です。
 よこにならんだ十のドアが、こうしてじゅんばんにあいていきました。三つ目のえんばんの文字は『O』です。四つ目が『小』、1つ目が『学』、六つ目が『校』、七つ目が『大』、八つ目が『運』、九つ目が『動』、さいごのドアからとび出てきたのは『会』です。
「UFO小学校大」
 大ちゃんは、空をとぶ文字をじゅんばんによみました。大ちゃんの『大』に力が入ります。力が入ったそのつぎを大ちゃんはよめません。
「ウーン」と、大ちゃんはつまりました。
「ウンでいいんだよ。運(ウン)、運(ウン)」と、パパはわらいながらいいました。
「わかったァ! 運(ウン)! 動(ドウ)! 会(カイ)!」と、大ちゃんのこえがはずみます。
 十この文字をならべながら、えんばんは、はまきUFOのまわりをグルグルとまわっています。
 ピピピピピ……
 パパとママのへやから、めざましの音がしました。
「おべんとうをつくらなくちゃ!」
 こえをのこして、ママはベランダからきえました。
 
「ヨーイ!」
 鳥男(とりお)くんの右手がピストルといっしょに上がります。プログラムのはじまりは、三年生の百メートルでした。
 ドン!
 スタートラインをとび出した子どもたちは、いっせいにUFO小学校のうたをうたいはじめます。
♪ U(ユ) U(ユ) U(ユ) U(ユ)
  F(フ) F(フ) F(フ) F(フ)
  O(オ) O(オ) O(オ) O(オ)
  UFO(ユーフォ)
 子どもたちの足がうき、うたにのったみんなのからだは空をはしっていました。空の上では、はまきUFOとえんばんの文字がたのしそうに子どもたちを見下しています。
 むれからはずれたえんばんが一つ、ななめ上の空をよこぎっていました。ひこうぐもが一本、まっすぐにのびて、まっ白なゴールテープのでき上がりです。
 子どもたちをおうえんする大人のこえが空にむかってとんでいました。大人おことわりのUFO小学校ですが、うんどうかいは、おうえんがたくさんいなければつまりません。
 一年生のはしるばんがやってきました。すこしみじかい八十メートルです。えんばんがあたらしいばしょに、ひこうぐもをひっぱりました。
「ヨーイ!」
 ドンより早く、ひろ子ちゃんのからだが車いすからうきます。鳥男くんは、あわててひきがねをひきました。
 ドン!
 一ぱつです。二はつうって、もとにもどすなどというケチなことはしません。おくれたみんなも、もんくもいわずにとび出しました。
 車いすをグラウンドにのこして、空の先とうをひろ子ちゃんがはしっています。
♪ U U U U
  F F F F
  O O O O
  UFO
 ひろ子ちゃんのすぐうしろをおいかけるのは、光子(こうこ)ちゃんです。はしっている五人の中で、光子ちゃんのフォームは一ばんきれいでした。なにしろおとうさんは、オリンピックのマラソン金メダルです。
「ひろ子!」
「光子!」
「ひろ子!」
「光子!」
 うちの人たちのこえがぶつかりあいます。おうえんをわすれて空を見上げているのは、光子ちゃんのおとうさんでした。
――すばらしいフォームだなァ、光子は……あの子もすばらしい。あの子も……なぜだろう?……そうだ! うただ! あのたのしいうたが、子どもたちをのびのびとはしらせているんだ! あのたのしいうたが、ひろ子ちゃんさえはしらせているんだ!
 光子ちゃんが、ひろ子ちゃんをおいぬきます。そのまま一とうでつっぱしり、ひこうぐものテープを光子ちゃんはきりました。
 みんなにぬかれたひろ子ちゃんは、ブツブツにきれたテープをはしりぬけます。大きなはく手が空にむかってとびました。
「ヨーイ!」
 ドン!
 白い短(たん)パンがうごきます。一年生の男の子たちのようでした。
 あれ? ピンクのパンツが一人まじっているのは、どういうわけなのでしょう。せたけは小さいのに、むねのふくらみは大きいのです。
 大ちゃんのママでした。一年生のママは、男の子のくみではしることになっていたのです。大ちゃんもはしっていました。
♪ U U U U
  F F F F
  O O O O
  UFO
 大ちゃんのママが先とうをはしっています。流(なが)れのようにおいついた流(りゅう)ちゃんがママをおいこしました。
――よその子に一とうをとられちゃう! 大ちゃんたら、なにをまごまごしてるんだろう!
 大ちゃんをたしかめようとして、ママのくびがうしろをふりむきました。
 みだれたこころがママの手足をみだします。ママのからだは空をすすまず、グラウンドにむかって、まっさかさまにおちてきました。
 三ばん目をはしっていた大ちゃんは、ママをたすけようとして、からだのむきを下げました。
「アーッ!」
 空を見上げるみんなのこえが大ちゃんの手足をみだします。みだれた手足をバタバタさせながら、大ちゃんもおちてきました。
 グラウンドのまん中にむかって、パパがはしり出しました。光子ちゃんのおとうさんがあとをおいます。うけとめようと手をひろげる二人の上に、おおいかぶさるかげがありました。
 まるいかげです。とんできた二つのえんばんから、たすけの手がのびていました。
「小子ちゃん、ソレッ!」
 リベーロの手がママをえんばんの中にひきずり入れます。
「大ちゃん、ソレッ!」
 もう一つのえんばんの中に大ちゃんをひきずり入れたのは、アーモの手でした。
 はく手にかこまれ、二つのえんばんは、グラウンドのまん中に下りました。大ちゃんとママがVサインをしながら、えんばんから出てきます。
 一とうをとった流ちゃんが、ちょうど空から、はしり下りてくるところでした。みんなの目は、大ちゃんとママにそそがれています。
「ぼくも、おちればよかったなァ」と、流ちゃんは、おかあさんにいいました。
「はやかったねえ。本とうにはやかったねえ」と、おかあさんはあたまをなでてくれますが、目はVサインにそそがれたままです。
「バッジつけて!」
 流ちゃんは一とうのバッジを高く上げて、おかあさんの目をふさぎました。
「ハイハイ」
 バッジをとって、おかあさんがしゃがみます。二人の目と目が、ようやくあいました。
「かっこいい」
 流ちゃんのむねについたバッジをゆびではじいて、おかあさんはいいました。おまけに、ほっぺたもはじいてくれました。流ちゃんは、ようやくニッコリわらいました。
 にぎわう空をながめていると、みんなのおなかが、あちらこちらでグーと音をたてはじめます。
「一年生のかりものきょうそうをやるから、あつまってね」
 うた子さんがよびにきました。
「もうすこしでおべんとうだから、がんばろうね」と、ママは大ちゃんのかたをたたいて立ち上がりました。
「ヨーイ!」
 ドン!
 八十メートルとおなじくみあわせが空にむかってとび出します。ふうとうをもった手がえんばんからつき出ていました。ママがふうとうをつかむと、手の先でアーモのかおがわらっています。
「がんばってね」
 アーモのことばに、こたえるゆとりはありません。ふうとうをやぶり、中のカードをぬきとりました。すてられたふうとうが空にまいます。
 二つにおられたカードをひらくと、えんぴつで『大むかしの人げんのうんこ』と、かいてありました。
 とんでもないかりものです。でも、ママはこまりません。古居(ふるい)先生のかおが、あたまの中にひらめいたのです。ママはためらわず、にしのほうがくへはしり出しました。
 目の下では、ふじ山がとおりすぎ、日本アルプスがとおりすぎていきます。びわこが見え、その先には日本海(かい)がひかっていました。
 日本海につながるように、小さなみずうみが見えてきます。二十五年まえ、古居先生にもらったプリントのしゃしんとおなじけしきが目の下にひろがっているのです。
 
 ママはいま、UFO小学校の一年生ですが、二十五年まえも一年生のときがありました。なつ休みがすぎ、二学きのべんきょうがはじまってまもなくのことです。古居先生は、ホッチキスでとじたプリントをかかえて、たのしそうにきょうしつに入ってきたのです。
 プリントをかかえたまま、古居先生はチョークをもちました。こくばんに文字がならんでいきます。みんなのわらいごえがうずまきました。
「さあ、みんなで、こえを出してよんでみよう」と、古居先生は大きなこえでいいました。
「う! ん! こ! い! し!」
 一つ一つに力を入れて、みんなも大きなこえでよみました。
「うんこ石って、どんな石だとおもう?」と、古居先生はたずねました。
「うんこのかたちした石!」
「うんこのくっついた石!」
「うんこいろの石!」
 みんなのこえがかさなります。古居先生は、かかえたプリントをポンとたたいていいました。
「こたえは、ここにかいてあるんだ。先生はね、うんこ石を見るために、なつ休みに、りょこうをしたんだよ。先生一人でたのしむのはもったいないから、みんなにもおしえてあげようとおもって、先生がさく文をかいて、いんさつして、できたのがこれなんです」
 古居先生は、からだのまえでプリントをたかくもち上げました。
「見して!」
「見して!」
 さいそくをするみんなのこえが、きょうしつにひびきました。
 
 うんこいし

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 ふくいけんの みかたこと いう みずうみに ながれる かわの きしで、おおむかしの うんこが たくさん ほりだされました。うんこは、つちのなかで、かたい いしに かわってしまい、もう、あの、くさい においは しません。でも、かたちと、いろは、いまの にんげんの うんこと かわりません。
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 ほんとうに にんげんの うんこなのだろうかと、だいがくの せんせいは かんがえました。ちうらみちこと いう せんせい です。
 みちこせんせいは、じぶんの たべる ものと おなじ ものを、じぶんの うちの いぬに たべさせました。じぶんの うんこと、いぬの うんこを くらべて みる ためです。くらべて みると、いぬの うんこには、たべものの もとの かたちが ほとんど のこって いないのに、みちこせんせいの うんこには、さかなの ほねや、とうもろこしの かたちが のこって いました。そして、ほりだされた おおむかしの うんこにも、さかなの ほねなどが はっきりと のこって いたので、これは、にんげんの うんこに ちがいないと、みちこせんせいは おもったのです。
 みちこせんせいは、うんこいしを かたちで わけて みました。うんこいしは、6つの かたちに わけられ、はじめ、ちょくじょう、しぼり、ばななじょう、ころじょう、ちびじょうと いう なまえが つけられました。
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 はじめと いうのは、うんこの ではじめの ところ です。ちょくじょうと いうのは、まっすぐな かたちと いう いみで、はじめにつづいた ところです。しぼりは、うんこの さいごの ところ です。うんこの さいごは、しぼりだすように するので、とがって います。ばななじょうは、ばななの かたち、ころじょうは、ころころした かたち、ちびじょうは、ちびの かたちの もの です。ちびの かたちに なったのは、やわらかい うんこが くずれて、ちいさく、ばらばらになって しまった ためです。
 みちこせんせいは、もっともっと、うんこいしの ことを しらべるつもりだったのですが、びょうきで しんで しまいました。まだ 35さいの おかあさんせんせい でした。
 うんこいしを しらべると、おおむかしのひとたちの たべた ものが わかります。おおむかしには、どんな きが はえた いたのかも わかります。きの かふんが、みずうみや かわに おちて ながれ、その みずを のんだ ときに、かふんが いっしょに おなかの なかに はいって、うんこに まじって でて くるからです。けんびきょうは、そういう かふんを うんこいしの なかから みつけました。
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 うんこいしが ほりだされた ところは、おおむかし、もう ひとつの みずうみが あって、その きしに ちかい ところ だったと いわれて います。おおむかしの ひとたちは、きしに ちかい みずうみの なかに くいを うち、その うえに いたを のせたようです。そこから、したの みずうみに うんこを したらしいのです。 みずうみの みずが なくなり、いつのまにか つちで うまってしまった その ばしょを ほると、うんこいし ばかりで なく、うったままの すがたで、くいも でて きました。まるきぶねも、でて きました。くいの ばしょは、ただの べんじょ では なく、まるきぶねを つないで おく ばしょでも あったのでしょう。
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 にんげんは、うんこを します。いぬも、うんこを します。うまも、うしも、うんこを します。にんげんも、いぬも、うまも、うしも、どうぶつ なのです。
 
 うんこ石を見にいきたいなァと、一年生のだれもがおもいました。大きくなったら、かならずいこうと、だれもがおもいました。おとうさんや、おかあさんに、うんこ石のプリントを見せ、きょうだいのいる子は、きょうだいにも見せました。おとうとがいる大ちゃんのママは、よんできかせただけではありません。おとうとといっしょに、うんこ石をつくろうとしました。トイレに入りかけたおとうとをそとにつれ出し、はたけのすみに、うんこをさせたのです。
 ゆげの出るうんこを二人はしゃがんでながめました。ゆげは、まもなくきえましたが、生々しさはきえません。
「なかなか、うんこ石にならないねえ」と、おとうとが、ためいきをついていいました。
「土をかけてみようか」
 そういうと、ママは、じめんの上のかわいた土をよせあつめました。おとうともまねます。
「すこしずつ、かけてみようね。おねえちゃん、やって見せるから」
 てのひらの土をままはゆびでつまみました。うんこの上から、まぶすようにふりかけます。うんこのつやがかくれ、石のようなかんじになってきました。
「ぼくにもやらせて」
 土をつまんだゆびをおとうとが出してきます。ママは、じぶんのゆびをひっこめました。
 おとうとのゆびの先からおちる土が、うんこのおけしょうをし上げていきます。いくらそれらしくし上がっても、かくれないのは、うんこのにおいでした。うんこ石ができ上がるのは、まだまだ先のことなのです。
「やっぱり、なんまん年もかかるのかなァ」
「それじゃあ、おねえちゃんも、ぼくもしんじゃって、だれのうんこ石だか、わかんなくなるね」
「名まえをかいて、ふだを立てておこうか」
「うん、おねえちゃん、かいてね」
 二人は、まわりを見まわしました。小さないたきれがおちています。
「あった!」といって、おとうとがつかみました。
 
 町のはずれの四かくいたてものは、もしかしたら、うんこ石のしりょうかんなのかもしれません。ママはスピードをゆるめ、からだを下にかたむけました。
 田んぼのいねのきりかぶが、目にささるようにむかってきます。じめんに足がつくと、きりかぶはとおざかり、たてものの正めんに立っていました。
 三方町郷土資料館
 よこにならんだ文字が正めんをかざっています。
「みかたまち、きょうどしりょうかん」と、ママはこえを出してよみ上げました。
 たてものの中に、はねるように入っていきます。うけつけには、わかい女の人がいました。
「ここには、うんこ石があるんですか?」
「ありますよ」
「よかったァ! かしてください!」
「ハ?」と、女の人がききかえします。
「かしてください! かりものきょうそうなんです! UFO小学校のうんどうかいなんです!」
 女の人は、こまったようにうしろをふりむきました。つくえにむかっていた白いかみのけのおじいさんが、いすから立ってちかづいてきます。
「三十五年まえ、ここに、古居先生がたずねてきたんです。小学一年生のわたしたちに、先生は、うんこ石のことをおしえてくれました。そのとき、わたしたちは、大きくなったら、きっと見にこようとおもったんです。でも、おどろきや、ゆめをわすれて、わたしたちは大人になってしまいます。わたしは、うんこ石のことをすっかりわすれていたんです。きょうはUFO小学校のうんどうかいで、かりものきょうそうがありました。このカードです。ここにかいてあるでしょう。大むかしの人げんのうんこ――この文字を見たとき、わたしは、わすれていたものをぜんぶおもい」おこしました。古居先生のかお、うんこ石のじゅぎょう、おとうととつくったうんこの立てふだのこと……」
「立てふだのことは、あとで、あなたのおかあさんにききましたよ」と、おじいさんは、ママのことばをとっていいました。
 ママは、おじいさんのかおを見つめました。古居先生のかおがかさなってきます。
「古居先生!」と、ママは先生の手をとりました。
「ようやく、わかったんだね。すっかり、おじいさんになっちゃったもんな。でもね、どんなに年をとっても、わたしは、おどろきや、ゆめをわすれないよ。うんこ石をしらべるために、わたしは学校の先生をやめて、ここにつとめたんだからね。こっちへいらっしゃい。うんこ石の本ものを見ましょう」
 ガラスのケースがならぶしりょうかんのおくに、古居先生はあんないしてくれました。
 ある、ある。はじめ、ちょくじょう、しぼり、ばななじょう、ころじょう、ちびじょうの六つのかたちが、ケースの中にならんでいます。
「どれをかりたい?」
「ばななじょう」
「ちょっと、まってね。もちやすいようにして上げるから」
 古居先生は、小さなガラスの入れものをもってきました。だっしめんをしき、ピンセットでつまんだうんこ石を一つのせます。その上からだっしめんをまたかさね、ふたをしました。
「かえすときは、とまるつもりで、ゆっくりいらっしゃい。かぞくみんなで、きてくださいよ」
「みんなで、きっときます。どうもありがとうございました。じゃあ、うんこ石、おかりしていきます」
 古居先生に見おくられて、ママはそとに出ました。
♪ U U U U
  F F F F
  O O O O
  UFO
 ママのからだがうきあがり、ひがしへむかって空をはしりはじめます。目の下では、日本アルプスとおりすぎ、ふじ山がとおりすぎていきました。
 ビルのつらなりが見えてきます。空にうかぶはまきUFOと、えんばんも見えました。
 ゴールの白いひこうぐもをママはさがします。ひこうぐもはきえ、みんなはもう、おべんとうをかたづけはじめていました。
 かたづけおわったのか、ふろしきにつつんだじゅうばこをまえにおいて、大ちゃんとパパは、ござにすわっています。
 空を見上げる二人の目は、ママを見つけました。あkらだを下にかたむけ、ママは二人のまえに下りました。
「ママ、おそかったねえ! おなかへっちゃったよ!」と、大ちゃんがおこります。
「あら、まだたべてなかったの?」
「しんぱいで、しんぱいで、たべられるわけないよ!」と、パパがおこります。
「ごめん、ごめん。かりもの先がとおすぎたもんね」
「ぼく、一とうだったよ」と、大ちゃんが、むねにつけたバッジをさしていいました。そのそばに、見なれない金いろのバッジがついています。
「その金いろのバッジはなに?」
「そうり大じんのバッジだよ」
「そうり大じん?」
「うん、かりものきょうそうでかりてきたの。こっかいぎじどうまでいって、かりてきたんだよ。ママは、なにをかりてきたの?」
 うんこ石の入ったガラスの入れものをママはうしろへかくしました。これからおべんとうだというのに、うんこ石のはなしはできません。
「ママのおはなしは、おべんとうをたべてからよ」
 じゅうばこのつつみをママはほどきはじめました。
 グーと、大ちゃんのおなかが、なんど目かの音をたてます。グーとパパのおなかも音をたて、ママのおなかも音をたててしまいました。
 
(了)

続き

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