UFO小学校6

UFO小学校のひなんくんれん
向井 豊昭


   UFO小学校のひなんくんれん

むかい とよあき

東京都豊島区東池袋*―**―**
向 井 豊 昭 58歳 フリーター
  TEL ****・****

 なつ休みも、あと一日になりました。ばんごはんをたべながら、たのしかったおもい出をしゃべりあっていると、でんわがなりました。ママがじゅわきをとります。
「もしもし、森山ですが……ア、太(ふとし)くん、どうしたの?……ちょっと、まってね。いま、かわるから」
 ママは、大ちゃんをよびました。
「ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……ウン……」
 かわった大ちゃんは、ウンばかりです。なつ休みのできごとをしゃべっていたげん気なこえは、どこかにふきとび、大ちゃんのウンには力がありません。もどってきた大ちゃんの口はとがっていました。
「なんのでんわ?」と、ママはたずねます。
「だいひょういいんかいに、かわりに出てって」
「いつなの?」
「あした」
「よかったじゃない。どうせ、たいくつなんでしょう?」
「たいくつじゃないよ」
「まだ、しゅくだいをやってないんだろう?」と、パパが口をはさみました。
「しゅくだいなんか、ないもんネー」と、ママは、大ちゃんのかおをのぞいていいました。気げんのわるい大ちゃんは、へんじをしてくれません。
「UFO小学校には先生がいないんだもんね。しゅくだいなんか出るはずがない」と、パパは一人でこたえを見つけました。
「そうよ。しゅくだいやらなくていいんだから、だいひょういいんかいぐらい出てあげなさいよ」
「出ないなんていってないだろう!」と、大ちゃんのこえが大きくなりました。
「一年生に、かわりができるのか?」と、パパはしんぱいそうに、ママにたずねます。
「できるとおもうわ、どうせ、ジャンケンできめるんですもの」
「エッ?! ジャンケンで?!」
「そうよ。クラスごとにジャンケンして、二人ずつ、きめるのよ」
「フーン」と、パパはたまげましたが、わる口はいいません。UFO小学校のかたやぶりが、パパには大ぶわかってきたのです。
「大ちゃんのクラスのだいひょういいん、もう一人はだれだったかしら?」と、ママが大ちゃんにたずねました。
「だれだったかなァ」と、大ちゃんはくびをひねります。ママもいっしょにかんがえました。
「ひろ子ちゃんだったかしら?」
「うん、ひろ子ちゃんだった」と、大ちゃんがうなずきます。かおが赤くなりました。とがった口がひっこんでいます。
 
 じどうかいしつに入ると、もう、なん人かのかおが見えました。ひろ子ちゃんのかおも見えます。
「おはよう、ひろ子ちゃん」
 こえをかけながら、大ちゃんは、となりのせきにすわりました。
「オーハーヨー。フートーシークーンーノーカーワーリー?」
「うん、太くん、りょこうに出かけていて、こんばん、おそくかえるんだって」
 チョークの音がします。こくばんを見ると、ほし子さんが、きょうのぎだいをかきはじめていました。
 
◎しぎょうしき
◎ひなんくんれん
 
 こくばんのまえにすわっているうた子さんと鳥男(とりお)くんが、へやの中を見まわしました。だいひょういいんのかずは、そろったようです。かおぶれは一学きとかわっているのに、かいちょうと、ふくかいちょうはおなじでした。二学きのやくいんをきめるジャンケンをやったとき、うた子さんと鳥男くんは、またジャンケンにかってしまったのです。
 うた子さんが口をひらきました。
「それじゃあ、だいひょういいんかい、はじめるわ。ぎだいはね、あしたのこと、二つなの。二つの中みと、そのかかりを、だいひょういんでどういうふううにわけてやるか、そうだんすればいいとおもうの」
「きょ年とおなじでいいんじゃない?」と、大ちゃんのとなりでこえがしました。
 五くみの震(しん)くんです。震くんは六年生なので、しぎょうしきも、ひなんくんれんも、たくさんやってきました。
「キョーネーンートー、オーナージー、ワーカーリーマーセーンー」
 ひろ子ちゃんが、震くんのかおを見ながらいいました。
「きょ年はね……きょ年は……わすれました」と、震くんは、あたまをかいていいました。
 ほし子さんがノートをめくります。
「きょ年の二学きのしぎょうしきは、いつものようにUFO小学校のうたをうたってから、ゲームをやって、そのあとで、ひなんくんれんをやりました。『じしんがきたので、つくえの下にかくれてください』というほうそうをして、『じしんがおさまったので、ひなんしましょう』という二ど目のほうそうをしました。二ど目のほうそうで、ろう下にならび、UFO小学校のうたをうたいます。うたにあわせて、まどから、そとにフワフワとび出し、グラウンドに下ります。だいひょういいんが人ずうをしらべて、それでおわりです」
 ほし子さんのせつめいがおわるのをまっていたかのように、ひろ子ちゃんはしゃべりました。
「ドーシーテー、シーギョーシーキー、ヒーナーンークーンーレーンー、ヤールーンーデースーカー?」
 大ちゃんは、ひろ子ちゃんのおなかをよこからつつきました。一学きのおわりごろ、九月一日の大じしんのことをしらべて、じしんクラブがはっぴょうしたのです。
 たてものがこわれ、やけ、たくさんの人げんがしんだという大じしんです。その日のおそろしさをわすれないために、ひなんくんれんは、まい年、九月一日にやられてきたのでした。しぎょうしきは、たまたまその日にかさなっているだけなのです。
 大ちゃんがひろ子ちゃんをつっつくのと、ほとんどおなじに、震くんがしゃべりはじめました。
「せっかく、じしんクラブがはっぴょうしたのに、ひろ子ちゃんのしつもんは、おかしいとおもいます。ひろ子ちゃんは、じしんクラブのはっぴょうを見なかったんですか?!」
 震くんのこえはふるえ、かおは赤くなっていました。震くんは、じしんクラブのクラブちょうなのです。
「ゴーメーンーナーサーイー。ミーマーシーター」と、ひろ子ちゃんは、うなだれていいました。
 おなじ六くみのともだちとして、ひろ子ちゃんのしっぱいをとりもどしたい大ちゃんです。
 目をつぶって、ことばをかんがえました。じしんクラブのはっぴょうしたスライドが、つぎつぎと目のうらにうつります。ギザギザにわれたじめんのスライドがストップしました。
 これだ、と大ちゃんはおもいました。しんぞうがドキドキします。しゃべらないうちから口の中がかわいていました。
「あのね……」
 ようやく出てきたみじかいことばに、つぎのことばがつづきません。
「あのね」と、もう一かいつづけ、とにかくくちびるをうごかしました。
 ことばが出てきます。
「グラウンドに下りてね、われたじめんにね、はさまったらね、どうするんですか?」
「じめんは、われるってきまってないよ」と、震くんは口をとがらせます。
「震くん、震くん、そのいいかたは、おかしいよ。われないときもあれば、われるときもある。だったら、われたときのことをかんがえて、ひなんくんれんしなきゃならないとおもうな」
「そうよ。きょ年のくんれんのやりかたは、まちがってたのよ。もっといいやりかたをかんがえましょうよ」
「さんせい」
「じめんはあぶないんだから、学校ごと、空にひなんすればいいんじゃない?」
「そんなこといったって、ぼくたち、うんてんできないだろう」
「いつものように、うちゅう人をよべば?」
「さんせい」
「はんたい」
「どうして、はんたいするの?」
「だって、じしんは、いつおそってくるかわからないでしょう。もし、本とうにじしんあら、うちゅう人がくるのをまってるあいだに、校しゃがつぶれてしまうかもしれないじゃない。つぶれるより先に、わたしたちの手でうんてんして、じめんからにげなきゃならないわ」
「そんなこといったって、わたしたちにうんてんできるかしら」
「うちゅう人におしえてもらったら、できるのかなァ」
 手を上げて、あてられた人がはつげんするというのは、UFO小学校のやりかたではありません。はなしあいは、おしゃべりで、おしゃべりが、はなしあいなのです。
「うんてんのしかたをおしえてもらえるかどうか、いま、きいてみるよ」
 おしゃべりの中に、鳥男くんのことばが入りました。
「さんせい」
「さんせい」
「さんせい」
 でんわのプッシュボタンを鳥男くんがおしました。
「はい、リベーロです」
「もしもし、鳥男です。いつも、おせわになってます」
「いえいえ。どうしたの? きょうは」
「いまねえ、だいひょういいんかいで、あしたのひなんくんれんのことをそうだんしてるんですけど、ぼくたちで、うんてんして、空にひなんできたらいいなあっておもってるんです」
「ウーン、やさしいことじゃないけど、やってやれないことはないね」
「エッ、本とうですか? じゃあ、いま、うんてんのしかたをおしえにきてくれますか?」
「ウーン、ここ二、三日、いそがしくてね。そっちにいかれないんだよ」
「いそがしいんですか……」
「でもねえ、こういうやりかたもあるよ。あした、テレビでおしえてあげるから、ききながら、うんてんするんだよ。そのくらいのひまならつくれるけど」
 リベーロのこえは、みんなにきこえています。
「うんてんしよう!」
「さんせい!」
「さんせい!」
 みんなのこえがはずみます。
「サーンーセーイー!」と、ひろ子ちゃんのこえも入りました。
「うんてんは、なん人えらびますか?」と、鳥男くんは、リベーロにききました。
「二人だね」
「はい、わかりました」
 鳥男くんは、でんわをきって、みんなのかおを見ました。
「ジャンケンしよう!」
「ジャンケンしよう!」
 うた子さんが、鳥男くんと小さなこえではなしはじめました。
 みんなにむかって、うた子さんがいいます。
「ぐうすうのくみと、きすうのくみにわかれて、一人ずつえらぶのでいいかしら?」
「さんせい!」
「さんせい!」
「さんせい!」
「グースー、キースー、ナーンーデースーカー?!」と、ひろ子ちゃんがたずねます。
「ぐうすうはね、2でわりきれるかず。だから、2、4、6くみから、うんてんしを一人えらぶのよ。きすうは、2でわりきれないかずだから、1、3、5くみよ」と、うた子さんがおしえてあげました。
「サーンーセーイー!」と、ひろ子ちゃんは、みんなにおくれていいました。
「さんせい」と、ひろ子ちゃんにおくれて、大ちゃんもいいました。ぐうすう、きすうが、やはりわからなかったのです。おくれすぎた大ちゃんのこえは、みんなにきこえないこえでした。
 いすから立ったみんなのむれが、二つになってあつまります。
「ジャンケンポン! アイコデショ! アイコデショ! ワーッ、かったァ!」
 とび上がってよろこぶなん人かのジャンケンがまたはじまり、とび上がる子どものかずがへっていきます。さいごにとび上がった二人の子どもは、震くんと、大ちゃんでした。
 
「大ちゃん、まっててヨーッ!」
 ママのことばといっしょに、おさらをあらう音がきこえます。いつもはママをまっているのに、まちきれないのが、きょうの大ちゃんでした。一びょうでも早く学校につきたいのです。
 うわさは、もうひろまっていました。そとに出た大ちゃんのすがたを見るなり、とおくからともだちがはしってきます。みんなにかこまれ学校にちかづくと、校しゃのタラップの下から、太くんが手をふりながらはしってきました。
 大ちゃんも手をふりました。ちかづいた太くんのまるいおなかが、ふくらんではしぼみます。あらいいきをはきながら、太くんはいいました。
「ありがとう! ジャンケンにかってくれたんだってね!」
「……」
「ぼく、ちゃんとうんてんして、みんなをひなんさせてあげるからね!」
「あれっ、大ちゃんがうんてんするんじゃないの?」と、まわりのともだちがいいました。
「大ちゃんね、ぼくのかわりにだいひょういいんかいに出て、ジャンケンしてくれたんだよ!」
「……」
 大ちゃんの口から、ことばは出ません。うんてんするのは、ジャンケンでかったじぶんのつもりでした。でも、太くんにいわれると、それが正しいようにおもえてくるのです。おもえてくるのがかなしくて、大ちゃんのかおは、すっかりくもってしまいました。
 くもったかおで、しぎょうしきをおわり、くもったかおで、きょうしつにかえります。
「ハーヤークー、ウーンーテーンーシーツー、イーキーナー」と、ひろ子ちゃんがいいました。
 大ちゃんは、つくえにうつぶして、シクシクとなき出しました。そんなにかなしんでいるともしらず、太くんは、もう、うんてんしつに出かけています。
「あれ? 太くんがうんてんするの?」
 先にきていた震くんが、太くんのかおを見るなりいいました。
「うん、大ちゃんのおかげだよ」
「大ちゃんが、ゆずってくれたの?」
「ゆずるも、ゆずらないもないよ。大ちゃんは、ぼくのかわりだったんだもの」
「ずるいよ、それ。ジャンケンにかったのは大ちゃんなんだもの、大ちゃんにうんてんさせてあげたらいいじゃないか」
「だって大ちゃん、なにもいわなかったよ」
 そこまでいったとき、うんてんしつにズラリとならんだテレビが一つ、ザーッと音をたてました。
 音がとまり、リベーロのかおがうつります。
「二人とも、うんてんせきにつきなさいよ。シートベルトをきちんとしてね」
 二人は、いいあいをやめました。うんてんせきにすわり、シートベルトに手をかけます。
 金ぐのはまる音がして、震くんのせすじをシートベルトがのばしました。
 太くんの金ぐは、はまりません。シートベルトの二つの先をひっぱって金ぐをあわせようとするのですが、金ぐはとどいてくれないのです。
 たいこのようなおなかの上で、シートベルトがもがきます。かおをまっ赤にしてひっぱりました。
 金ぐの先がふれあいます。のこった力をふりしぼると、金ぐは小さな音をたてて、ようやくはまりました。太くんのひたいは、あせだらけです。
「これから、ひなんくんれんをします。ひなんくんれんをします。いま、じしんがおきました。つくえの下にかくれてください」
 ほうそうのこえは鳥男くんです。つくえの上にうつぶしてないていた大ちゃんの耳に、いすのうごく音がしました。ゆかをはう音がして、みんなはつくえの下にかくれたようです。
 大ちゃんは、うつぶしていたかおをそっと上げてみました。つくえにもぐれないひろ子ちゃんが、車いすにすわったまま、となりにいます。かくれることのできないひろ子ちゃんは、りょう手でかくしたあたまをからだのまえにひくくしずめていました。ひろ子ちゃんにも、大ちゃんにも気づかないで、みんなは、つくえの下からおしりをのぞかせているのです。
「ひろ子ちゃん、あぶない!」
 本もののじしんがきたかのように、大ちゃんは、ひろ子ちゃんのからだの上にかぶさりました。
「じしんのうごきがとまりました。つぎのじしんがくるまえに、ろう下に出て、シートベルトをかけてすわってください。ひなんのため空へとびます。本とうに空へとぶので、かならずシートベルトをしてください」
 鳥男くんのほうそうがまた入りました。ろう下のゆかにしかけられたいすが上がり、よういはもうできていました。
 みんなの足がいそぎます。ひろ子ちゃんの車いすをおしながら、大ちゃんもいそぎました。
 となりのくみから出てきた大ちゃんのママが、目をまるくしていいます。
「どうして、うんてんしつにいかないの?!」
「ぼく、ひろ子ちゃんをまもってやるんだ!」と、大ちゃんはいいました。
 車いすのままシートベルトをかけられるひろ子ちゃんのばしょが空いています。とくべつふとく、とくべつながいシートベルトをつけた太くんのばしょも空いています。天の川にいったときも、ホッカイドウのキャンプにいったときも、太くんがすわっていったばしょでした。きょう、そのせきに太くんがすわらないことをしっていたなら、じどうかいのやくいんは、うんてんせきのシートベルトととりかえておいたでしょう。
「あと十びょうで空へとびます!」
 ほうそうしつの鳥男くんのこえが、スピーカーをとおしてながれてきました。ふくかいちょうの鳥男くんといっしょにいるのは、かいちょうのうた子さんと、しょきのほし子さんです。三人はくびをつき出して、目のまえのテレビにうつる太くんをながめていました。シートベルトがとにかくはまったのは、三人にとってのすくいでした。
「10! 9! 8! 7!」
 せきについたろう下のこえが、ほうそうしつにも、うんてんしつにもきこえてきます。震くんと、太くんは、ひたいからあせをふき出しながら、テレビの中のリベーロを見つめていました。
 「4! 3! 2! 1! 0!」
 みんながさけぶ0といっしょに、テレビの中のリベーロがくちびるをうごかします。
「震くん、スイッチ1をおして! 太くん、ハンドルを上にひいて!」
 二人の手がうごきました。青いひかりが校しゃをくるみます。ひかりは、じめんをたたき、校しゃは、空へむかってとび出します。震くんも、太くんも、おもわずおなかに力を入れました。
 力の入ったおなかがふくらみます。そうでなくてもふくらんでいる太くんのおなかは、いまにもやぶれそうないきおいで大きくなっていきました。
 バン!
 音がしました。とうとうやぶれてしまったのでしょうか?
 やぶれたのは、太くんのシートベルトでした。ベルトの先の金ぐがとび、ハンドルをもった太くんのからだがガクンとまえにたおれました。
 ぼうのかたちのハンドルが、からだのおもさをのせて、まえにたおれます。太くんは、あわててハンドルを手まえにひっぱりました。
 いきおいがつきすぎて、たおれてきたハンドルの下じきになってしまいます。足でゆかをさがし、ふんばりながらハンドルをもどそうとしました。もどす力がはずみすぎ、ハンドルといっしょに、太くんは、またまえにたおれてしまいました。
 太くんのうごきといっしょに、UFO小学校は、なみのように上下しながらとんでいました。
「キャーッ!」
 なにもしらないみんなは、ジェットコースターのようなはげしいくもの上下にはしゃいでいます。
 ほうそうしつのうた子さんは、じぶんのシートベルトに手をかけて、はずそうとしました。ほし子さんも、おなじうごきを見せます。
「はずしちゃだめ!」と、鳥男くんがさけびました。
「太くんをたすけにいかないと、大へんなことになるわ!」
 うた子さんと、ほし子さんが、鳥男くんの手をはらいます。
「うんてんしつにいくまえに、かべにぶつかって、しんじゃうよ! リベーロにまかせるんだ!」
 鳥男くんがさけぶまえに、リベーロは、もうさけんでいました。
「スイッチ10をおして! スイッチ10!」
 震くんの手はあせり、10をさがしてふるえます。
「キャーッ!」
 みんなのはしゃぎごえがまたしました。なみをやめたUFO小学校は、うずをまきながら、上へ上へと上っていくのです。
 太くんのからだが、ゆかの上をころがっていました。ころがりながらも太くんは、ハンドルから手をはなしません。からだといっしょに、ハンドルはグルグルとまわって、UFO小学校をうずまきにあやつっているのです。
 震くんのゆびが、ようやくスイッチ10にさわりました。UFO小学校のはげしいうごきは、くもの上でピタリととまります。
「太くん、けがはしなかったかい?!」と、リベーロがいいました。
 太くんは、ハンドルから手をはなして立ち上がります。てのひらをながめて、太くんがいいました。
「手がすりむけちゃった」
「えらい、えらい。手をはなさないで、よくがんばったなァ。あとは震くんにまかせて、みんなのところにもどりなよ」と、リベーロがいいます。
 太くんは、震くんとのあいだをながめました。りんじのせきが一つ、まえにたおれています。ホッカイドウにキャンプにいったとき、大ちゃんのママがみちあんないにのっていったせきです。
 かおを上げ、太くんは、テレビの中のリベーロにいいました。
「このせき、つかえるんでしょう? 大ちゃんと、かわるのはだめ?」
「大ちゃんにうんてんさせてください!」と、震くんもいいました。
「わかった、わかった。大ちゃんをよんでおいで」
 太くんがはしり出しました。うんてんしつのドアが音をたてます。ひびきをのこし、足音が小さくなっていきました。
「大ちゃん! うんてんかわろう!」
 太くんのこえがろう下にひびきます。
「いいよ、ぼく。太くんみたいに、うまくできないもん」と、大ちゃんは、くびをよこにふりました。
「ナーミー、ウーズーマーキー、オーモーシーローカッーター」と、ひろ子ちゃんがニコニコしながらいいました。太くんのかおが赤くなります。
「大ちゃん、大ちゃん、すぐにうんてんしつにいきなさい。リベーロのめいれいです」
 鳥男くんのこえがスピーカーからひびきました。
「いってもいいんだけどさ、みんな、ひろ子ちゃんのことをわすれないでね」と、大ちゃんは、まわりを見まわしていいました。
「ひろ子ちゃん、さっきはごめんね」
「こんどは、わすれないからね」
「しんぱいしないで、うんてんにいきな」
 みんなのこえがかさなります。大ちゃんは、ひろ子ちゃんのかおをのぞきました。
「コーノーハーオートーシー(木の葉落とし)」
 ひろ子ちゃんは、下りかたをねだります。
「木の葉落としなんて、ぼくにできるかなァ」と、大ちゃんはこころぼそくなりました。
「できるよ! リベーロさんにおしえてもらいな!」と、太くんは、大ちゃんをはげましました。
「じゃあ、いってくる!」
 大ちゃんは、おもいきってはしり出しました。はしりながら、木の葉のようにまわってみました。あたまのなかにも木の葉がまい、大ちゃんは一まいの木の葉になりきっていました。きせつはすこし早いけど、まっ赤にそまったモミジの葉です。

〈了〉

続き

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