UFO小学校

UFO小学校の入学しき
向井 豊昭


  UFO小学校の入学しき
          むかい とよあき
 
 ビルがニョキニョキ、森のようにたっています。川のようにでん車がはしり、ビルのまどにも、でん車のまどにも、あさのひかりがキラキラとはねかえっていました。  キラキラとかがやくうみはどこ? ウーン、あそこじゃないかな? なみのように人が出て、なみのように人が入っていく――ほら、そこのえきを、うみのつもりにしておこうよ。
 大(だい)ちゃんとママが、えきのなぎさで手をふっています。パパのせ中は、もうかいさつ口のおくにきえ、見えなくなってしまいました。キラキラとかがやくなみになって、パパはおつとめに出かけたのです。
 きょうのパパはキラキラです。だって、パパはきょう、ひっこしをして、さいしょのおつとめの日なのです。
 大ちゃんもキラキラです。ママもキラキラ――だって、きょうは大ちゃんのさいしょの日――小学校の入学しきがあるのです。パパを見おくった足で、大ちゃんとママはちかくにあるはずの小学校へむかってあるきはじめました。
「ねえ、ゆうほう小学校って、どんな字をかくの?」
 あるきながら、大ちゃんはママにたずねました。
「ママ、でんわでちょっとおはなししただけだもん、どんな字かくか、わかんないわよ」
「もしかして、UFOのUFOかなァ」
「ゆうほうのゆうほう?」
「空とぶえんばんのUFOさ」
「まさか!」
「じゃあ、ママ、どんな字だとおもう?」
「そうねえ、もしかしたら、友宝(ゆうほう)かしら?」
「それ、どういう字?」
「友(とも)だちの友(とも)に、宝(たから)ものの宝(たから)をかいて、友宝(ゆうほう)ってよむのよ」
「フーン」
「そうよ! きっと、宝(たから)もののようなお友(とも)だちがいっぱいいるんだわ!」
 ママの大きなこえに、みちをいく人たちの目がわらいます。大ちゃんははずかしくなって、ママとつないだ手をふりほどきました。
 足のうごきをおそくすると、ママのきものののさくらの花がすこしずつはなれていきます。
 さくらの花がきえました。みちをいく人が大ちゃんのまえに入り、ママをかくしてしまったのです。ママは、せが小さいので、すぐ人にかくれてしまいます。
 大ちゃんはかけ出しました。ランドセルが小さな音をたてています。本とうは、大きなこえで「ママ、まってよう!」とさけびたいのに、大ちゃんはランドセルの音だけでがまんして、ママをおいかけました。
 人ごみの中から、さくらの花がパッとあらわれます。大ちゃんはママの手をにぎって、ハーハーといきをはずませました。入学しきをむかえたばかりのあまえんぼうなのに、大ちゃんのあたまは、ママのかたまでとどきます。一年生にしては、せたけが大きく、小さなママのせたけをおいこすのは、とおい先のことではないようです。
♪ U(ユ) U(ユ) U(ユ) U(ユ)
  F(フ) F(フ) F(フ) F(フ)
  O(オ) O(オ) O(オ) O(オ)
  UFO(ユーフォー)
 うたがきこえます。ママの手につかまりながら、大ちゃんは、まわりを見まわしました。せのたかい女の子が、車いすによりそってあるいています。ふじゆうな手足をあやつって車いすをうごかしているのは、小さな女の子でした。ふうせんをふくらませるように、二人はくちびるをとんがらせて、うたをうたっているのです。
♪ U U U U
  F F F F
 べつのこえがかさなり、大ちゃんはくびをまわしました。小さい男の子の手を、大きい男の子の手がひいているのです。二人のくちびるも、ふうせんをふくらませるようにとんがっていました。
「ママ、あの子たち、ゆうほう小学校の人?」
「そうらしいわね」
「なん年なの?」
「一年生じゃないわね」
「どうして?」
「だって、ランドセルせおってないでしょう」
♪ O O O O
  UFO
右と左から、うたが耳をおどらせます。大ちゃんの足がはずみ、スキップをしながら、ままの手をひっぱりました。
「大ちゃん、やめてちょうだい! ママ、きものだから、スキップできないのよ!」
 ママは、ひめいをあげました。スキップをやめた大ちゃんは、こえのスキップでいいました。
「ママ、たのしいうただね!」
「そう?」と、ママのこえにスキップはありません。
「おばさん」
「おばさん」
 右と左から、こえがしました。UFOのうたがとまっています。ママと大ちゃんのくびが右と左にゆれました。
「UFO小学校にいくんですか?」と、せのたかい女の子がいいました。
「そうよ。きょうは大ちゃんの入学しきなの」と、ママのくびは右を見上げます。
「おかあさんですよね」と、せのたかい男の子がいいました。
「わたし、おねえさんに見えた?」と、ママのくびは左を見上げます。
「おかあさんでも、おねえさんでも、大人は入学しきについてこられないんですよ」
 こえが右にかわりました。それにかわった左のこえは、小さい男の子のこえでした。
「ぼくだって一年生なのに、一人できたんだよ。と中で、しらないおにいちゃんが手をつないでくれたんだ」
「ワーターシーモー、イーチーネーンーセーイー」
 右のこえは、車いすの女の子です。ふじゆうなこえをたすけて、かおいっぱいでわらっています。
「わたし、この子の名まえもしらないの。と中でいっしょになっただけなのよ」
「ウーミーノー、ヒーローコー」
 車いすのよこをたたいて、一年生の女の子は、じぶんの名まえをいいました。車いすのよこには、『海野ひろ子』という文字がかいてあります。
「ああ、海野(うみの)ひろ子ちゃんんね。わたし、梢(こずえ)うた子。六年生よ」
「じどうかいの、かいちょうなんだよ。ぼくはふくかいちょうで、うた子さんをたすけているんだ。岡鳥男(おかとりお)」
「ぼくは、川原(かわはら)流(りゅう)」
 鳥男くんのよこで、一年生の男の子がいいます。
「きみの名まえは?」と、鳥男くんが大ちゃんにたずねました。
 大ちゃんは、ランドセルのない子どもたちのせ中を見ます。じぶんのランドセルがきゅうにおもくなり、大ちゃんの口はピッタリとしまってしまいました。
「本とうに、UFO小学校にいくんですか?」と、うた子さんがママにたずねました。
「そうよ、森山大をよろしくね」
「森山大ちゃんかァ」
 鳥男くんの手がのびて、あたまをなでてくれます。おもわずニコッとしてしまった大ちゃんのかおを、もとにもどしたのはうた子さんです。
「大ちゃん、どうしてランドセルしょってるの? ランドセルなんか、いらないのよ」
「きょうは、きょうかしょをいただく日でしょう? きょうかしょは、ランドセルに入れるものよ」と、ママがいいました。
「きょうかしょなんか、ないんですよ」
 こんどは、鳥男くんがいいました。
「あら、おかしいわ。きょうかしょがなかったら、おべんきょうできないでしょう?」
「できますよ」
「ワーッ!」と、ママがさけんだのは、鳥男くんをやっつけるためではありません。まがりかどの先にある校しゃのすがたにママはおどろいてしまったのです。
 大ちゃんも、おどろいて立ちどまりました。ドームがたのまっ白いUFOが、ひろいみちはばをふさいでよこたわっています。“UFO小学校”というよこがきの文字を、ドームはオレンジいろにかがやかせていました。
「ちょっと、ちょっと、どこにいくんですか?」
 まがりかどのこうばんから、おまわりさんのこえがしました。
「UFO小学校です。この子の入学しきなんです」
「UFO小学校の入学しきでは、大人のつきそいはだめになっているんですよ」
「わるいじょうだんは、やめてください!」
 ママは大ちゃんの手をにぎりなおして、おまわりさんにせ中をむけました。もう一つのママの手を、おまわりさんはつかみます。
「いたいわよ! はなしなさい!」
 ママの口から、つばがとびました。子どもたちが、ガヤガヤとあつまってきます。 「こんなもの見たってしょうがないよ! 早く学校にいこうよ!」
 子どもたちによびかけるのは鳥男くんです。
♪ U U U U
  F F F F
 鳥男くんのうたといっしょに、むらがりがほどけました。
「ひろ子ちゃん、先にいってて。わたし、大ちゃんをつれてくから」と、うた子さんはいいます。
 鳥男くんの手が上がり、うたのしきをとりはじめました。UFOのような手のうごきに、みんなはこえをあわせてうたいはじめます。こえといっしょに、みんなの手も上がり、鳥男くんのうごきをまねます。グルグルまわる手のうごきを、からだがまね、からだの先の足がどうろからういていきます。まるでUFOのパレードのように、みんなは空をとんでいくのです。
 ひろ子ちゃんも、車いすごと、グルグルまわっていきました。ドームをかこむ、まんまるいまどの中に、みんなといっしょにすいこまれていきます。
 みとれるママと大ちゃんの耳に、おまわりさんのこえがひびきます。
「名まえをいいなさい!」
「いつまで人の手をつかんでるのよ!」
「じゃあ、手をはなしますよ。名まえをいってくださいね」
「森山小子(しょうこ)よ!」
「ぼうやの名まえは?」
「森山大」と、大ちゃんのこえは大きくありません。
 名まえどおりの二人のせたけです。おまわりさんは、わらいをこらえていいました。
「大ちゃんは、うた子さんといっしょに学校へいきなさい。ね、おりこうさんだから」
「大ちゃん、いこう」と、うた子さんが手をひっぱります。
 大ちゃんは、うた子さんの手をふりほどき、りょう手でママの手をつかみました。よわ虫の大ちゃんをはなしてやるのが、ママはしんぱいです。
「ママが一年生なら、いっしょにいってもいいんだよ。でも、ママは一年生じゃないでしょう? ママといっしょにいったら、ママはろうやに入れられるんだよ」
 おまわりさんがいいきかせようとします。
「そうよ! わたしも一年生になればいいのよ! おまわりさん! わたし、一年生なんです! 一年生の小子ちゃんです!」
「小子ちゃん」と、ママをよんだのは、うた子さんでした。「ずっと、学校にこれるの?」
「ずっと、ずっと、きますよ」と、ママはきっぱりいいました。
「おまわりさん、小子ちゃんは一年生よ」と、うた子さんがいいました。
「どうして、この人が一年生なんだい?」と、おまわりさんは、からだをふっていいます。
「UFO小学校はね、べんきょうしたい人なら、だれでも入れる学校なのよ。じゃまをすると、おまわりさんがろうやだわ」
 うた子さんはいいすてると、ママの手をひっぱりました。ママにつかまる大ちゃんは、ママといっしょにひっぱられます
「オイ、オイ」
 こえだけで、おまわりさんはおいかけてきません。こえもとおくなり、ドームがすこしずつちかづいてきます。
 大ちゃんの足がおもくなりました。みんなのようにとんでいきたいのに、うた子さんはうたをうたってくれないからです。大ちゃんの目から、なみだがながれてきました。
「どうしたの? 大ちゃん」と、ママが気づきました。
「とびたいの」と、大ちゃんは小さなこえでいいました。
「うた子さん、大ちゃん、とびたいんですって」
「大ちゃんがとんでったら、ママ――あっ、まちがったわ。小子ちゃんだったわね。小子ちゃんはね、ここに、おいてきぼりになってしまうわよ」
「わたしだって、とんでくわよ」
「小子ちゃんはね、とべないの」
「どうして?」
「さっき大ちゃんが『たのしいうただね』って、小子ちゃんにいったでしょう?」
「いったわよ」
「そのとき、『そう?』って、おへんじしたでしょう?」
「……」
「たのしくない人は、とべないのよ」
 ママの口は、もううごきません。うた子さんは、大ちゃんにいいました。
「大ちゃん、小子ちゃんをおいてきぼりにして、わたしととんでいく?」
 大ちゃんは、くびをよこにふりました。
「大ちゃん、やさしいね。小子ちゃんがUFOのうたをたのしくうたえるようになるまで、小子ちゃんを見すてないでね」と、うた子さんは、はげましてくれました。
「みなさん、入学おめでとう。これから、UFO小学校の入学しきをはじめます。ぼくは、じどうかいのふくかいちょうをやっている岡鳥男です。みなさん、立ち上がって、大空を見上げましょう」
 たいいくかんのゆかの上に、わをつくってすわっていた一年生も、一年生をかこんですわるみんなのわも、いっせいに立ち上がりました。あたまの上には、ドームのまるい天じょうがかぶさっています。ガラスばりの天じょうは、青い空のいろをすきとおしていました。
「あの大空のとおくのうちゅう人にもきこえるように、みんなでげん気に、UFO小学校のうたをうたいましょう。ピアノのばんそうをしてくれるのは、じどうかいちょうの――」
「梢うた子デース」と、うた子さんがピアノのまえで手をふりました。
 大ちゃんのとなりで、ママはキョロキョロしています。いくらたっても、先生はあらわれません。そうです。UFO小学校は、先生もいない学校なのです。
 うた子さんのゆびが、UFOのようにおどりはじめました。うたごえがおどり、みんなのからだは、フワフワとうきはじめます。大ちゃんのからだも、ういていきました。ういて、ういて、どんどん天じょうにちかづきます。
 おもわずあたまをかかえると、かかえた手にゴムまりのようにやわらかい天じょうがあたり、大ちゃんもゴムまりのようにはずみます。はずみながら、ゆかにむかって下りていくと、ゆかはトランポリンのようにはずみ、からだは天じょうにむかっていくのです。
「うた子さん、うた子さん、先生はいらっしゃらないんですか? 早く先生をよんできて、ちゃんと入学しきをやってくださいよ」
 ピアノのよこにやってきて、もんくをつけているのはママです。うた子さんはゆびをはしらせ、ポロポロンとさいごの音を出しました。ママのもんくにまけたのではありません。鳥男くんがはずみながら、おわりのあいずをしたからなのです。
 ごちゃごちゃになったみんなのからだがおちてきます。一年生も、二年生もありません。三年生も、四年生もありません。五年生も、六年生も、みんなごちゃごちゃになってい、ゆかの上にポンとつきました。
「みなさん、そのままうごかないでください。これから、くみをきめます」と、鳥男くんのこえがひびきます。
「ちょっとまって! 小子ちゃんがここにいるのよ!」と、ピアノのまえからうた子さんがいいました。
「小子ちゃん! みんなの中にまじってください!」と、鳥男くんは、みんなのかたまりの中からいいました。
「大ちゃんは、どこかしら?」と、ママはつま先立ってみます。あまりのごちゃごちゃで、大ちゃんを見つけることはできません。
「早くまじって!」と、うた子さんが手をひっぱりました。
 ピアノのばしょとはんたいがわのゆかの上で、大ちゃんは足をのばし、むねに手をあて、目をとじていました。トランポリンがあんまり気もちよかったので、スーッとねむってしまったのです。
 すきとおったいたが、ゆかの下からゆっくりと出てきて、ママのからだをふさぎます。うしろをむくと、うしろからも、おなじいたが出てきます。右をむくと右からも出て、左をむくと左からも、おなじいたが出てくるのです。
「うごかないで」
 うた子さんが、ママのかたを下におしつけました。しゃがんでまわりを見まわすと、すきとおったいたにかこまれ、三十人ぐらいの子どもたちがいます。そのそとがわもいたでかこまれ、三十人ぐらいの子どもたちがいました。そのそとがわもいたでかこまれ、やっぱり三十人ぐらいの子どもたちがかたまっているのです。
 天じょうから、くす玉が下りてきました。一、二、三、四、五、六――かこみの上に一つずつぶら下がっているくす玉のかずは、ぜんぶで六つなのです。
「みなさ、六つのくみができましたよ。これから一年かん、この六つのくみにわかれてべんきょうすることになります。くす玉をわると、くみのばんごうをかいたたれまくが出てきますからね。それでは一年生のみなさん、くす玉のひもをもってください。よういができたら、まずみんなで『U』といってください。つぎに『FO』とこえをあわせて、ひっぱってもらいます」
 ママからとおいかこみの中から、鳥男くんのこえがします。
「これがべんきょうのくみなの!? 一年生も六年生もまじってるじゃないの!」と、ママは大きなこえで鳥男くんにいいました。鳥男くんは、こたえてくれません。
「小子ちゃん、ハイ」
 うた子さんのこえといっしょに、くす玉のひもが一本、ママのまえに出されます。ママは、くす玉どころではありませんでした。
「大ちゃんと、くみがわかれちゃうわ! ねえ、なんとかしてよ!」
「小子ちゃん! わがままはゆるしません! おしりピンピンよ!」と、うた子さんのこえは大きくなりますが、かおはわらっています。
「それでは、かけごえをかけますよ。一、二、三、ハイ!」
 鳥男くんのあいずがしました。
「U!」と、みんなのこえがひびきわたります。ママの手には、ひもが一本、おしつけられていました。くす玉からはなん本もひもがたれ、ママのまわりにかたまった一年生のかわいい手は、ひもをひっぱるタイミングをはかりながら小きざみにふるえています。
「FO!」
 こえといっしょに、ひもがひっぱられました。かみふぶきがヒラヒラとふってきます。ママの目のまえに、サッとたれまくが下がりました。
 一くみのみなさん 入学おめでとう!
「ワーイ、一くみだァ!」
 ママのまわりで、子どもたちはとび上がります。ママもとび上がりました。大ちゃんをさがすためのママでした。
 いる。いる。ずっとむこうの六くみのたれまくの下で、大ちゃんはかみふぶきにとびついています。てのひらをひらくと、かみふぶきは、ほしのようにちらばっていました。ねむ気をパッとさましてくれる、かみふぶきのひかりです。
 そばにいるのは、車いすのひろ子ちゃんでした。ひろ子ちゃんのてのひらに、大ちゃんは、じぶんのかみふぶきをもう一かいふらせてあげました。
 ゆかの上のかみふぶきをひろいあつめ、大ちゃんにわたすのは鳥男くんです。大ちゃんからひろ子ちゃんに、かみふぶきはふりつづけました。
「みなさん! じぶんのくみの人と手をつないでください!」
 うた子さんがいいました。すきとおったいたは、ゆかの中にしずんでもうさかいはありません。みんなは手をつなぎながら、うた子さんのことばをまちました。
「みなさん、UFO小学校のまわりには、うみがありませんね。でも、UFO小学校には、うみがあるんです」
 キョロキョロとまわりを見て、うみをさがすのは一年生です。でも、一人だけ、さがさない一年生がいました。その一年生は、車いすの上から、じぶんの名まえをいいました。「ウーミーノー、ヒーローコー」
「そうだわ。そこにも、うみがあったのね。一年生の海野ひろ子ちゃんデース」と、うた子さんはいいました。
「川もあるよ。ぼく、川原流」と、ママのそばでこえがしました。流ちゃんは、ママとおなじ一くみです。
 ママは、せのびをして、六くみを見ました。大ちゃんは、なにもいいません。
「山もあるわよ。わたし、森山小子デース」と、ママはいいました。
「すばらしいしぜんが、つぎからつぎにあらわれてきましたね。それではこれから、なみをつくってあそびましょう。はじめに、一くみから五くみまでが、なみになります。一くみが手をつないで一本のなみになり、そのうしろに、二くみ、三くみと、五くみまでならびます。六くみは、一くみとむかいあってならんでください。なみとたたかう人げんになります。人げんは、手をつながなくてもいいです。はじめに一くみのなみがまえにすすみ、人げんをおそいます。人げんはうしろににげないで、なみにむかってすすんでください。なみの下をかいくぐってもいいし、なみのあたまをとびこえてもいいです。なみをこえられなかった人げんは、おぼれたことになります。おぼれなかった人げんだけ、つぎにくる二くみのなみにむかっていってください。こうして五つのなみをこえた人げんのかずをさいごにかぞえます。どのくみもじゅんばんに人げんをやって、のこった人げんのかずをくらべます。みなさん、わかりましたか?」
「ハーイ!」と、げん気なこえがいっせいにかえってきます。
「ちょっとまって!」と、ママはあわてていいました。「わたし、このすがたで、はしったり、とんだりできるとおもう? こまるわよ!」
 こまります。ママは、さくらのもようのきものだったのです。
「わたしのうんどうぎをかしてあげるから、それでがまんしてください」
 うた子さんがロッカールームにはしりました。あとをついて、ママも小またではしっていきます。
 うた子さんがロッカールームのとをあけたとたん、よごれたにおいがドッとママのはなにおしよせてきました。
「これ、いつ、おせんたくしたの?」
 ママはうんどうぎから手をひいていいました。
「きょ年かったんだけど、まだおせんたくしたことないの」と、うた子さんは、ペロリとしたを出しました。
「どうせ、わたしにはダブダブだし、ほかの子のも、みんなよごれてるんでしょう? いいわ。きものでやっちゃおう」と、ママはにげるようにロッカールームから出てしまいました。
 なみごっこがおわり、川ごっこをしました。川ごっこがおわり、山ごっこをしました。川と山は、どんなふうにやったのでしょう? それは、ひみつ――このおはなしをよんでいる、あなたのあたまでかんがえてみてください。ただ、これだけは、いっておきましょう。ママは、きもので、なみも、川も、山もやってしまったのです。さくらのもようの上には、みんなのくつのそこ、てのひらのあとがパッとさいて、それはそれは、みごとなものになってしまいました。
「きょうの入学しきは、これでおわりです。あそびたい人は、まだ学校にのこっていていいです。あしたも、げん気であいましょう」
 あせをふきながら鳥男くんがいうと、「まって!」と、こえがひびきました。「二年生いじょうのみなさんは、これからうんどうぎのおせんたくをします!」
 ママのこえです。
「ワーッ!」というみんなのこえがかえってきました。『いやだなァ』の『ワーッ』のようでもありました。『おもしろそうだなァ』の『ワーッ』のようでもありました。
「このたれまく、もらうわよ」
 ママは、くす玉のたれまくをひっぱりました。たすきをつくって、きものにかけると、ママはかいだんにむかいました。
 よごれたうんどうぎをもって、もうみんながかいだんを下りていきます。ママは、みんなのあとをついていきました。
 かていかのおへやです。せんたくきがズラリとならんでいます。うた子さんが、せんざいのはこをもうさかさにしていました。
 ママがはしりよると、せんたくきの中に水は見えません。なん人ぶんものうんどうぎがつみかさなり、その上では、せんざいが山をつくっています。
「ストップ!」と、ママは、せんざいをいれるうた子さんの手をとめました。「せんざいがおおすぎますわよ。せんたくものも入れすぎ。なにより、かにより、水が入っていないじゃないの」
「ママ! 早くかえろうよ!」と、入り口からこえをかけたのは大ちゃんです。大ちゃんのそばには、車いすのひろ子ちゃんがいました。流ちゃんもいます。
「ママじゃありません! 小子ちゃんは、いそがしいんです!」と、ママは入れすぎたせんざいをさじですくいながらいいました。
「小子ちゃん! おともだちと、おうちであそぶやくそくしちゃったんだ! ねえ、早くかえろうよ!」
 大ちゃんのことばに、ママは手をとめました。たなにおいたハンドバッグの口をあけます。かぎをとり出すと、大ちゃんめがけて、ほうりなげました。あわてて出した大ちゃんの手に、かぎは見ごとに入ります。
「ママ、ありがとう!」
「ママじゃありません!」と、ママはまたいいましたが、大ちゃんのすがたは、もう入り口には見えません。
「これ、だれの?! 名まえがかいてないわよ!」
 入れすぎたせんたくものを一つとり、ママがさけびました。
「あっ、ぼくのです」と、鳥男くんがあたまをかきました。
「みんな、じぶんの名まえがかいてあるかどうか、よく見てください! 名まえがかいてないと、だれのかわかんなくなって、こまるときがあります! 名まえがかいてない人は、いますぐマジックでかきましょう!」
 はりきったママのくちびるから、うたがもれてきました。
♪ U U U U
  F F F F
  O O O O
  UFO
 みんなのこえがすぐにかさなり、たのしい、たのしい、おせんたくのじかんがはじまりました。ママのからだはフワフワとうきながら、せんたくきからせんたくきへと、とんでいきます。
 まどのそとでは、大ちゃんがフワフワとうきながら、おともだちと空をとんでいました。

〈了〉

続き

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